福岡高等裁判所 昭和57年(ラ)19号 決定 1982年4月15日
抗告人 馬場文雄
主文
本件抗告を却下する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
一 本件抗告の趣旨及び理由は、別紙記載のとおりである。
ところで、民事執行法一〇条二項によれば、執行抗告の申立は、抗告状を原裁判所に提出してしなければならない旨定められているところ、本件申立は、抗告状を原裁判所である佐賀地方裁判所に提出せず、抗告裁判所である当裁判所に直接提出してなされていることが記録上明らかである。
しかして、かように執行抗告の申立が抗告状を抗告裁判所に直接提出してなされた場合には、これを不適法として却下するのが相当である。なんとなれば、民事執行法が新たな抗告手続である執行抗告の制度を創設した趣旨は、旧法下においてしばしばみられた手続の不当な引延しを図り執行妨害を目的とする濫抗告を防止することにあり、そのために抗告状の原審提出主義、原審却下制度が採用されているのである。しかるに、抗告状が抗告審に直接提出された場合に、これを救済し、原審に移送するなどの措置をとる取扱いがなされれば、原審に抗告状が提出された場合と比較して結果的には相当な期間が余分にかかることになり、ひいては、手続の引延しの防止を目的として創設された執行抗告の制度が、抗告状を抗告審に提出するだけで容易に手続の引延しを図れる制度となってしまい、立法趣旨に反することになるからである。
二 よって、本件抗告は不適法であってその不備を補正することができないことが明らかであるから、これを却下することとし、抗告費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 松村利智 裁判官 金澤英一 吉村俊一)
<以下省略>